高祖父が亡くなった。百二十四歳。老衰だった。
現代の医療技術からすれば平均的な寿命だろう。葬式から一か月経ち、ようやく気持ちが落ち着いてきた。
今日は曾祖母と一緒に高祖父母の家、すなわち曾祖母の実家へ遺品整理をしに来ている。家具などの大きい物は、後日業者に回収してもらう予定である。まずは、残しておく物とそうでない物を分別していく作業だ。
曾祖母が書斎のクローゼットの中から茶色い箱を取り出す。箱のふたを開けて中を覗き込むと、紙の束が大量に入っていた。「手紙」という名称は聞いたことがある。今ではほとんど見かけない貴重な物だ。
じっと見ていると、曾祖母から机の周辺を片付けるよう頼まれてしまった。しぶしぶ、その場を離れる。机の引き出しを開けると、筆記用具やタブレット端末のほかに、いくつかの外部記憶装置が入っていた。
今日の作業があらかた終わり、リビングで曾祖母と休憩中。
そういえば、と思い出して書斎に入る。机の上に出していた外部記憶装置を一つ手に取って、リビングへ戻った。
曾祖母の隣に座り、腰に付けていたポシェットから自分のタブレット端末を取り出す。起動後、外部記憶装置を装着。半透明の画面が目前に浮かび上がる。問題なく動かせそうだ。
中身は写真だった。几帳面な高祖父らしく、一つ一つの写真に題名と日付が入力されている。曾祖母と一緒に見ながら、故人との思い出を語り合った。
一枚の写真に目を止めた。小さい頃の高祖父らしき人物が写っている。写真の題名は『日向の公園にて』。
「日向って何かな?」
「公園」は何となくわかる。少女が知っている場所とは名称が違うが、滑り台が写っているところを見るに、子どもたちが集まって遊ぶ場所のことだろう。
「私も詳しくは知らないし、上手く説明できないのだけれど」
曾祖母が頬に手を当てながら、ぽつぽつと話し出す。
「まず、その写真はここで撮られたものではないわ」
「どういうこと?」
「私たちが住んでいるこの場所が、シェルターと呼ばれていることは知っているわよね」
「うん」
「シェルターの外側ってどうなっていると思う?」
「わかんない」
生まれた時からシェルターの中に住んでいる少女にとって、「外」といったら居住地区以外の空間を指す。それが当たり前で、シェルターの外側なんて考えたことがなかった。
「実はね、シェルターの外側にはここの何倍もの空間が広がっているそうなの。あなたのひいひいお爺さんは、小さい頃シェルターの外側で暮らしていたのよ」
でもね、と難しい顔で曾祖母が続ける。
「『地球温暖化』という現象によって、気温が少しずつ上がっていった。生き物が生きていける温度ではなくなってしまったの」
「ふうん。そんなに暑いの?」
「常時空調整備されているシェルター内と違って、外側は六十度以上よ」
少女は目を見開いた。ニュースでは聞いたことがない数字だ。
「それでシェルターを造ったってこと?」
「そういうこと。あなたは賢いわね」
「えへへ」
曾祖母が少女の頭を優しく撫でる。少女は照れながらも、撫でられる温もりを享受した。
「そうそう。最初の質問に戻るわね。『日向』というのは『太陽』の光が当たっている場所のこと。『太陽』はシェルターの外側にしか存在しないもので、とっても大きくて熱い球体よ。それ一つですべての空間を明るくしてくれるの。現在でいうと、外灯が一番イメージに近いかしら」
「へえ――!」
少女はもう一度、小さい頃の高祖父が写った写真を見る。高祖父の頭上に、シェルター内全域を明るくするような、大きな外灯を想像した。

