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【短編】黄泉路の旋律

夫を亡くした女の話(2)

気づけば女は自室にいた。手に持っていたはずの懐中時計はない。机の中から自身の日記帳を取り出し、最後の頁を確認する。夫が死んだ一年前の日付だった。  夢見心地のまま、玄関へ足を進める。家の前では慌ただし...
【短編】黄泉路の旋律

夫を亡くした女の話(1)

ちりん。  誰の涙雨か。次第に激しくなる天候の中、大通りを進む葬列がある。先導するのは親類縁者の男たちだ。駕籠かきが籠と棺を担ぎ、提灯、花、放鳥、香炉を持った者が順に続く。位牌を持っている男が喪主だろ...
【短編】鬼と千代の約束

第8話 二人の約束

涙が止まると気持ちも落ち着いてくる。  改めて考えて、十年って長い。  そう鬼さんに伝えると「誤魔化されなかったか」という目で見られた。  一年近く鬼さんを見てきたのだ。無表情に見えてもわたしにはわか...
【短編】鬼と千代の約束

第7話 大木の上から

桜の花びらがひらひらと舞う。  顔を下に向ければ、町のあちこちでピンク色の絨毯が作られている今日この頃。     ◇  今日は鬼さんが大木の上のほうに連れてきてくれた。  片腕で抱えられて、枝のところ...
【短編】鬼と千代の約束

第6話 こわくない

はんかち、ティッシュ、飲み物、お菓子……。 「よし」   いつもより重くなったリュックを背負い、玄関に向かう。  外に出て数歩進んだところで振り返った。決意を胸に、小さく呟く。 「行ってきます」   ...
【短編】鬼と千代の約束

第5話 祭神

「あの方と何かあったのかい?」  お爺ちゃんの言葉に目をぱちくりさせる。  ここはお爺ちゃんの部屋。  障子から入ってくる日の光は淡く室内を照らす。角度によっては、お爺ちゃんの白髪が銀色にも見えた。 ...
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