頭上を見上げると、木の葉がそよそよと揺れている。
一度足を止めて、深呼吸してみた。新緑の若々しい匂いが胸いっぱいに広がった。
このまま木漏れ日を浴びながら日向ぼっこしたら気持ち良さそうだ。
誘惑を感じたが気を取り直す。額の汗を腕で拭いながら、再び足を動かした。
わたしは今日、目的があってここに来たのだ。
◇
うちの神社は曰く付きらしい。周りの大人たちは口を揃えて言う。
「ちい、本殿の裏側に行ってはいけないよ」
わたしが理由を聞いても教えてくれない。
ただ、何かに対して畏れていることは、子どもながらに伝わってきた。
わたしの疑問に唯一答えてくれたのは、お爺ちゃんだ。
お爺ちゃんはわたしと一緒で、不思議なものが見える人。わたしはお爺ちゃんの体験談を聞くのが大好きだった。
お爺ちゃんが言うところによると、本殿の裏側には人一人が通れるくらいの小さな門があるらしい。そこをくぐると裏山に繋がっているそうだ。
そして、裏山での不思議な体験も話してくれた。
◇
黙々と歩き続けること約十分。ようやく目的地に辿り着いた。
目の前には注連縄の巻かれた大木がある。
しばらくその大きさに圧倒されていたらしい。気づいた時には口が半開きで、唇はパサパサになっていた。
わたしは背負っていたリュックからお菓子の袋を取り出す。置場所に迷ったが、最終的に大木の根っこの部分に置くことにした。直に地面に置くよりはましだろう。
神社を参拝する際の基本の作法をし、目一杯願った。
目を開けても特に変化は感じない。残念に思いつつ、大木に背を向けようとした時、幹の端に不自然なものを見た。どうにも着物の一部のように見える。
わたしは急いで大木の裏に回り込んだ。
そこには、わたしより十歳くらい年上のお兄さんが座っていた。濡羽色の髪と金色の瞳に、黒無地の着物が似合っている。
ほぼ人間と変わらない姿なのに、額に生えた二本の角が、彼が人間でないことを示していた。